理事長 藤重佳代子
「なぜモンゴルなのか」「なぜバングラデシュなのか」――この問いを何度も受けてきました。一見異なる二つの国ですが、どちらも私の人生を大きく変え、今の活動へと導いてくれたかけがえのない存在です。
■ バングラデシュとの出会い ― 原点となった衝撃
国際支援に目を向けたきっかけは、2003年にNGO「ハンガー・フリー・ワールド」のスタディツアーでバングラデシュを訪れたことでした。そこで出会ったアニスルさんとミトンさんは、今も交流のある戦友のような存在です。
ダッカからジョソールへ移動し、アニスルさんの生まれ故郷で現地の暮らしを体験しました。一方でダッカのスラム街も訪れ、幼稚園児のような子どもたちがレンガ工場で働く姿に衝撃を受けました。貧しい家庭で育った私も、「自分の貧しさはまだ序の口だった」と思い知らされた瞬間でした。
近年バングラデシュは著しい経済発展を遂げましたが、ジョソール近郊の農村部では今も格差が大きく残っており、「まだ支援が必要だ」という思いは変わりません。
■ バングラデシュの人々の暮らしを支えるために ― 生活支援から教育・就業支援へ
私たちはこれまで、中学生への奨学金支援や学校建設など、教育を中心とした活動に取り組んできました。しかし、現地では「学びたくても生活が苦しい」「教育を受けても働く場所がない」という現実があります。
そこで現在は、生活支援・教育訓練支援・就業支援を一つの流れとして捉え、持続的な自立につながる仕組みづくりに力を入れています。
その一つが「家畜支援プロジェクト」です。山羊や牛、鶏などを寄贈し、ミルクや卵などの栄養を確保するとともに、繁殖や販売によって収入を得られる仕組みを目指しています。また、マンゴーやニームなどの植樹も進め、将来的な収入源や地域の環境保全につなげています。
子どもたちが安心して学び、学んだ先に働く場があり、家族が安定した生活を送れること。その循環を生み出すことこそが、私たちが目指す「自立を支える国際協力」の姿です。
■ モンゴルとの出会い ― 人とのご縁が広げてくれたもう一つの人生
モンゴルとの縁は、2008年6月、稲作プロジェクトのボランティアとして、富山県モンゴル友好親善協会の活動に参加したことから始まりました。
その活動の中で出会ったアムガランさんには、長年にわたり通訳として支えていただきました。そして、モンゴルとのご縁をここまで広げることができたのは、友好親善協会の山口会長や長井さんをはじめ、当時ご縁をいただいた政治家や経営者の皆さま、さらにバトフー先生やデムベレル先生など、多くの研究者・専門家の方々のお力添えがあったからです。
人との出会いが新たな出会いを生み、そのつながりが今の私の活動の大きな支えとなっています。モンゴルは、私にとって多くの学びと大切なご縁を与えてくれた、もう一つの人生の軸となっています。
■ 名誉領事としての役割 ― 人と地域をつなぐ使命
2023年、在富山モンゴル国名誉領事を拝命しました。当初はその役割を十分に理解していたわけではありませんが、職責を学ぶ中で、「人と人、地域と地域をつなぎ、在日モンゴル人を支え、経済・文化交流を促進すること」が名誉領事の大切な使命であることを知りました。それまで点として取り組んできた活動が一本の線で結ばれ、自分の進むべき道がより明確になったように感じています。
その活動の一つが、モンゴルでの稲作プロジェクトです。現在、モンゴル政府のご理解とご支援により、カラコルム市で約200ヘクタールの農地を借り受ける許可をいただくことができました。
しかし、いきなり大規模栽培を始めるのではなく、まずはその農地で栽培するための「チンギスゴールド」の種籾を増やすことが最初の挑戦です。そのため現在、トゥブ県やウランバートル近郊の試験圃場で田植えを行い、9月頃の稲刈りでどれだけ種籾を増やせるかに挑戦しています。
寒冷地でも育つ稲を育成し、将来的にはモンゴルの人々が自ら米を生産し、食を支えることができる環境をつくること。それは食糧安全保障の観点からも大きな意義があり、私自身の新たな使命の一つになっています。
■ 「天は自ら助くる者を助く」―私が目指すボランティアのかたち
私の愛読書の一つに、サミュエル・スマイルズの『自助論』があります。
自助論(Self-Help)は、19世紀イギリスの思想家 サミュエル・スマイルズ によって書かれた書籍で、1859年に出版されて以来、世界中で読み継がれてきました。日本でも明治時代以降、多くの人々に影響を与えてきた名著です。
この本の中で最も心に残っている言葉が、
「天は自ら助くる者を助く(Heaven helps those who help themselves)」
という一節です。
これは、「困ったときに誰かが助けてくれるのを待つのではなく、まず自分自身が一歩を踏み出し、自ら努力する人にこそ道が開かれる」という考え方です。
自助論の根底には、
・自分の人生は自分で切り拓くこと
・努力は日々積み重なること
・人格や誠実さこそが信頼を生むこと
・働くことそのものに価値があること
といった普遍的な考え方があります。
私はこの言葉を、決して「人に頼らず一人で生きること」だとは思っていません。むしろ、自立した人同士が支え合い、学び合い、共に成長していくことこそが、本当の自助の精神だと考えています。
私たちが目指しているボランティア活動も、まさにその理念に基づいています。
これからの時代、世界は食糧問題やエネルギー問題など、多くの課題に直面しています。だからこそ、一人ひとりが「自分たちで生きる力」を身につけることが大切です。
食糧を自分たちで育てること。
エネルギーをできる限り地域で生み出すこと。
誰かに依存するのではなく、自立した暮らしを目指すこと。
そして、自分が学んだことを周りの人に伝え、困っている人がいれば手を差し伸べること。
「学ぶこと」と「教え合うこと」、そして「助け合うこと」は、決して別々のものではありません。
一人ではできないことも、志を同じくする仲間が集まれば、大きな力になります。
私は、ボランティアとは単なる支援活動ではなく、「自立した人を育て、その人たちがさらに誰かを支える循環をつくること」だと思っています。
一人ひとりが自らの力で立ち上がり、その力を周囲のために役立てていく。
そんな人の輪を、日本から、そして世界へと広げていくことが、私の目指す社会であり、私がボランティア活動を続ける理由です。
■ 自立を支える学び ― AI・パソコン・農業講座への取り組み
現在、日本においてAIやパソコン講座など、さまざまな学びの場を準備しているのも、この「自助」「自立」という考えに基づいています。
これからの時代、AIは電気のようなインフラになると言われています。この学習を怠れば、日常生活の中で不便を感じるだけでなく、誰かに頼らざるを得ない状況が生まれます。
そしてAIを使いこなすためには、基本となるパソコン操作が不可欠です。そのため、パソコン講座についても今後さらに強化していく予定です。
また、農業分野においても、家庭菜園講座の開設を進めています。特別な道具がなくても、身近な工夫で野菜を育てることができます。
例えば、ドラッグストアなどで手に入る200円前後の土の袋をそのまま使い、底をガムテープで補強することで、プランターがなくても簡単に栽培が可能です。
ネギや薬味、レタスなどの葉物野菜から、トマトやきゅうりといった夏野菜、さらにじゃがいもやにんじんなどの根菜類まで、日常の中で育てられる方法を、皆さまと共に実践的に学んでいきたいと考えています。
また遠方の方々にも参加していただけるよう、Zoomを活用したオンライン講座も実施予定です。これまでモンゴル語講座において、オンライン配信や動画学習の有効性はすでに実証されており、今後はさらに内容を充実させてまいります。
■ 二つの国がくれたもの
バングラデシュとモンゴルとの出会いは、私の人生を大きく変えてくれました。
バングラデシュでは、人が生きるための教育と仕事の大切さを学びました。
モンゴルでは、大自然とともに生きること、人と人とのつながりの尊さを教えられました。
この二つの国を訪れるたびに、自分は何を大切にして生きていきたいのか、何のために行動するのかを改めて考えさせられます。
私にとってバングラデシュとモンゴルは、活動の場であると同時に、自分自身の原点を思い出させてくれる大切な場所です。
